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アンサーソン

おひとついかが

いい布団

結構前の話だが、私はオタクの会社に勤めていたことがある。社員数等会社の規模自体はそこまで大きくないが、アニメやゲームが好きな人だったら絶対に知っているという会社だった。まだクールジャパンという言葉もないくらいの時期だった。社員は「『萌え』とかもう古いよねー」などと言っていて、世間では『萌え』という言葉が認識され始めたばかりだったので、入社当初はなんかスゲーなと思っていた。

私はオタクではない。アニメも多少観るし、ジョジョも好きだがマニアではなく忘れているエピソードも多々ある(アニメの3部開始が無事決定して嬉しい)。ヌルヲタとも言えるようなレベルでは全くない。けれど、オタクの人は結構好きだ。なぜ好きなのかと問われるとよくわからないのだが、基本的に「私の知らないことをよく知っている人が非常に好きだ」というのが理由かもしれない。私が知らないことを嬉々として雄弁に語る姿を見るのが好きなのだ。ただし、ちゃんと私に説明してくれようとする姿勢がある人に限る。単語の説明もなしにただただ専門用語を並べて煙に巻くようなしゃべり方をするヤツは変人扱いされて「オタクキモ〜イ」とギャルにしかめっ面されてろバカと思う。

その会社を辞めた理由はまあどうでもいいんだけど、暫くやって「仕事内容が面倒な割に面白くなくてペイが少ない」というのが最大の理由だった。上司の指示も曖昧で丸投げされることも多く、仕事自体が苦痛だった。それからパートのおばちゃんが口うるさかったのもある。パートのおばちゃんの勢力がとにかく強い会社だった(といったらあの会社知ってる人にはわかるんだろうな…)。

 

話を戻す。

私はオタクではないのだけれど、色々と事情があってその会社で働くこととなった。

社内のパートのおばちゃんたちと私以外の人はオタクの人ばかりだった。オタクの会社なんだから当然といえば当然だ。オタクだらけだが、そのオタクっぷりを全く感じさせない人たちも中には沢山いた。

その中の一人をKさんとする。Kさんはどう控えめにいっても太っていた。「健診で引っかかった」などと言っているレベルの人だ。しかし、私は彼と話す度「いい布団みたいな人だなぁ」と思っていた。

先に断っておこう。私はデブ専ではない。オットは初めて会ったときから小太りだったし太ってきたけれど、オットの前まで付き合った人にデブはいなかった。そしてオットにいい布団のイメージもない。強いていえばオットは普通の布団だ。

 

最近あまり見かけなくなってしまったが、私の「いい布団」イメージの人に与沢翼がいる。与沢翼のことを見かける度に私は「いい布団みたいな人だなー、Kさんみたいな人だなー」と思っている。

「いい布団」それは高級な布団。掛け布団だ。中身はアイダーダウンで側はシルクだ。

私は与沢翼についてはあまりよく知らないのだけど、彼のアイダーダウンはちょっと胡散臭いよね。でも彼にはその胡散臭さがいいとも思う。

 

Kさんは胡散臭い人ではなかった。

私の2歳ほど年下だったように記憶しているが、慌てるような場面でも焦ることのない人だった。精神的に余裕のある人だった。あまりの落ち着きに、30過ぎくらいかなと年齢を知るまで勝手に思っていたほどだった。彼女がいなくて彼女が欲しいと言っていたので、もし私にあのとき付き合っている相手がいなかったら食事くらいには誘いたかった、本気で。

 

私は何かあるとすぐ慌てるほうだ。何か慌てる事象が起こったとき、あまり後先考えずに走り出してしまう。災害やら天変地異やらが起こったら真っ先に死ぬほうだと思う。初めて「慌てない人」を見たとき、私は本当に驚いた。こんな人いるんだ!と思った。その初めて見た「慌てない人」も男性だったが「なんで慌てないんですか?焦ったりしないんですか?」と聞いたら「慌てたってその慌てる原因がなくなるわけじゃないじゃん」と言われてなるほどと思った。しかし原因がなくならなくたって、焦る気持ちは出てくるじゃないかと思うんだけど、そういう人って本当に全く慌てないから凄いなと思う。たまにいるよね。

オットもそのタイプだ。

私が慌ててしまうほうなので、オットも慌ててしまったら二人でワタワタすることになる。しかしオットが慌てていないことで、私も多少冷静さを取り戻せる。ありがたい存在だ。

 

オタクの会社を辞めるとき、Kさんに会えなくなるのが一番悲しかった。少しだけ一緒にした仕事があっただけで特に親しかったわけでもないのだが、私はKさんのことをもう少し知りたかったしもっと話もしたかった。また会えるのだったら色々聞いてみたいこともある。もしあのときそういう機会に恵まれていたら、私はKさんを好きになったかもしれないなあと今でも思う。

 

Kさんのことは関係なくても「いい布団」っぽい人を見るのは幸せな気持ちになる。

今のところ与沢翼くらいしかいないのだけど、最近はブームも去ってTVにもあまり出てくれていないし、私の周囲に誰かいい布団っぽい人が新たに現れてくれないだろうか。切望。

 

冬の夜 芯から冷える寒い日は 重ねて眠ろう君のような布団