アンサーソン

おひとついかが

さくら

ちょっと前の話。

営業から社内メールが届いた。内容はこうだ。

「某出版社の某さんより、明日○時から○○書店にて、××さんという作家さんの『△△』という本の出版記念サイン会があるのだけれど、本の売れ行きがイマイチで整理券がさばけず困っている、という話があった。その時間帯にお手空きであればサクラとして参加していただきたい」

ああーなんか私オタクの会社にいたときもサクラ頼まれたことあるわー、不参加だったけどー、こっちでもそういうのあるのねーなんて思いつつ、その作家さんが不憫になる反面「でも同情(というかサクラ)でサイン会に『ファンです』って参加されてもイヤだろうなー」などと考えていた。

私は仕事で参加は不可能だったのだけれど、一応本の情報を見に行くと、それなりに面白そうと思える内容だった。ただ、本を割と読んでいる方の私でもその作家さんの名前は聞いたことがなく、出版履歴も数冊で、要は新人さんというくくりに入れてよさそうな人だった。

 

サイン会翌日、私にメールを送ってきた営業に「サイン会、どうだったんですか」と聞いたところ、整理券の定員いっぱいにはならなかったがそれなりに当日購入者がいてサイン会に参加してくれたから、実は出版社内でも知り合いを連れてきてくれるように頼んでいたりしたのだけれど、その人たちがいなくてもそれなりに見える程度には参加者がいたということで、他人のことながらホッとした、ということがあった。

 

 

数ヶ月前、本屋に赴いたところ、かの本が文庫化されていた。

本をよく読む人ならばご存じとは思うが、ハードカバーでもソフトカバーでもそれなりに売り上げがなければ作品は文庫化されない。刷ったところで売り上げが見込めないからだ。そういう作品は、文庫化されず、重版されずに絶版になる。私が好きな作家のものでも文庫化されていない作品がいくつかあり(絶版になってしまったものもある)、そういう状況を見る度に私はその作家が大きなダメージを受けて創作意欲を失ってしまうのではないかとハラハラする。誰でもそうだろうが、好きな作家には元気に書いていて欲しいのだ。

 

 

そして今日。というかつい先ほど。

めぼしいものがkindle化されていたら購入しようとAmazonkindleストアを眺めていたところ、件の本がkindle化されていた。

 

なんと。

なんと…!

 

文庫化以上にkindle化はハードルが高い。文庫化されているけれどkindle化されていないような作品は掃いて捨てるほどある。酷いものになると、シリーズの1作目と3〜5作目はkindle化されているのになぜか2作目だけkindle化されていないなどという不届き千万な作品もある。一体どういった了見だこのやろう。このやろうと思いながら、そのページを開く度にAmazonkindle化リクエストをちまちまと送信する。

私は文庫化が待てずにハードカバー(ソフトカバー)を買ってしまうような人間なので(重くて持ち運びに不便だし嵩張る、あと高い!ので、ハードカバーは余程気に入った作品しか本当は買いたくない。ハードカバーを買ったのに駄作だったときのガッカリ感が異常なのも理由のひとつ)、kindle化が待てずに文庫やハードカバーを購入した作品もいくつかある。つい先週もkindle化を待ちきれずに文庫を数冊買ったばかりだ。

 

 

話を戻す。件のサイン会の作品である。

レビューも沢山ついていて、☆は4つほど稼げていた。

よかった。面白いと思って貰えている。ちゃんと文庫化され、kindle化までされている時点でちゃんと評価を受けているであろうことは予想していたけれど、レビューは殆どが好意的なもので本当に安心した(「面白くない」と言っている人もいたけれど、それはどの本でもそうだよね)。

 

 

実はその作品を、私は未だに読んでいない。

前述したように、情報を見にいったときに「面白そう」とは思ったのだ。けれど、自分が裏側のちょっとしたズルに関わってしまった(正確には何一つ関わっていないのだけれど)という罪悪感みたいなものがずっとあって、本屋で見かけたときも手に取ることができなかったのだ。

本来、私がそんな罪悪感を持ついわれは何もないということは重々承知しているのだけれど、なぜかずっとその作家さん、というかその作品に対して申し訳ないという気持ちが消えなくて、読もうという気になれなかった。

だけど、そんなものは私の錯覚なのはわかっているし、こうやって何度も目に入るということは、このままにしておくと私はたぶんこの作品をこの先もずっと気にしながら生きていかねばならないのだろうと思ったので、この機会にもう読んでしまおうと決めた。

もしかすると想像に反してクソつまらないかもしれない。でもそれはそれでいいと思う。それこそその作品に対する、私が裏側の片鱗を見てしまったことへのせめてもの罪滅ぼしだと思うことにした。

勿論、本当は心から面白いと思えて、あのときサイン会にたとえサクラとしてだって参加できなかったことを悔やむレベルのものであれば最高だ。

 

さあどうなるか。今から読むのが楽しみでもある。

(今日はもう寝るけど)